VTAで何が起こったかのバーチャル話

スポンサーリンク

昨年来、VTuberのライブ配信を習慣的に見るようになったのですが、今年の7月から8月にかけて個人的に少し気になった出来事がありました。今回はこの件について憶測を含めながら、少し考えを述べてみたいと思います。

実態不明なVTA

多くのVTuberを抱えるANYCOLOR株式会社、同社が運営するバーチャル・タレント・アカデミー(以下VTA)において、今年8月にメンバーのルール違反が発覚したとして多くの被処分者が出ました。部外者にとってウェブサイトの簡単なおしらせの内容以上には全くその詳細は不明なのですが、結果として30名近くいたメンバー(在学生)が10名以下にまで減る事態となっています。

まずVTAについて説明をしたいところなのですが、改めて考えてみるとVTAとは何なのか実際にはほとんど何も知らされていないのだなと思い知らされます。VTAはライブ配信やSNSで多くの情報発信をしているのですが、根本的なところは徹底的な秘密主義が貫かれています。

名称から素直に受け取るならVTAは学校の一種のようにも見えます。実際の運用の様子や案内の表現からも学校の体裁を取っています。学校なのであればVTAには複数の学生の時間を拘束するだけの役務的な責任および社会的な責任があるはずであり、その学生には学生としての権利が存在しているはずです。

また学校なのだとすると部外者として浮かぶ疑問としては、多くの学生に対して退学にあたる処分を下すにあたって、本当に公正な審査が行われたのか、また違反行為をした学生が在校生の半数以上に及ぶようなルールが、社会通念上一般的な学生に求められる範囲の内容であったのか、また規則適用においての公正性が客観的に担保され確認できる仕組みはあるのか。というようなことがあげられます。

たとえば「情報管理の徹底」違反が情報漏えいを意味するのだとしたら、機密の情報の範囲は予め学生に知らされていなければならないでしょうし、その処分が公正なものだと示すためには、事前に知らせていたことを客観的に確認できる書類の類が存在していなくてはならないわけです。また学校が学生と秘密保持契約等を結ぶことは一般的なことではないので、規則違反の裁定にはより慎重さが求められるでしょう。

一方でVTAの実態は一般的な学校などではないこともはっきりしています。学校の設立は公的な登録が必要でしょうし、ライブ配信やSNSから受ける情報からは同社が個人に提供している研修制度に近いように表現されることも多いからです。ではVTAの「学生」の立場は研修サービスを受けている利用者にすぎないのでしょうか。

たとえば一般の企業が行う新規雇用者に対する研修であれば、雇用関係にある個人に対して行うのですから、その間の給与も出ますし、企業の一方的な都合で関係を破棄することも難しいでしょう。

ところが個人事業主に無料で提供する研修制度であるなら、実態として個人を無給で研修させることができるのでしょう。また一方的な都合でサービスを中断したとしても何の問題もないのかもしれません。おそらく下請法などの法的な制限も受けないのではないでしょうか。

もちろんこれは最終的な契約(同社の契約ライバーとしてのデビュー)という餌の存在を考慮しない場合の話です。実際にはVTAはこれ(が得られる可能性)を前提に募集をかけていますし、「学生」はこれを目的にして研修を受けているわけで、法的な意味合いや学生の立場なども変わってくるでしょう。

限られた情報だけからの印象ですが、全体としてVTAはずいぶん同社に都合の良く作られた制度のようにも思われます。いずれにせよ部外者からはVTAがどういう位置づけにあるものなのか判断する材料がないというのが現状です。

VTAの実態不明さのいやらしいところは、結局どんな可能性もあり得るということです。このような乱用的にも見える処分があっても失意に打ちひしがれている人は誰もおらず、学生の数が減ったとしても内部では問題にもなっていないのかもしれません。何も知らなければ平穏な状態に見えるかもしれませんし、処分を受けたとされる大半の学生がとつぜん復学して何事もなかったかのようにライブ配信を始める可能性もあるのです。

スポンサーリンク

バーチャルの呪縛

話をややこしくしている根本は同社が扱っている商品性が「バーチャル」だという事実にあるのではないでしょうか。もちろんバーチャルは同社、多くのVTuberやその視聴者がともに大切に扱っている概念で、夢であり誇りでありかつ虚構の物語です。

個人や社内情報の管理に同社が過剰に秘密主義で神経質に見えるのは、同社の商品が「バーチャル」であることと無関係ではないでしょう。(個人的には物語に基づいた狭義のVTuberは嫌いではありません)

問題はVTAに通う学生は現実の生身の人間である以上VTAは現実に立脚した存在であることが求められるということにあります。そのためVTAの存在はバーチャル側から主張される文脈とは相容れないところがあり、VTAはバーチャルと現実の間で矛盾を抱えることになっているのだと思います。

VTAの悲劇はこの矛盾が引き起こした規則違反への過剰反応に起因する、というのは穿った見方に過ぎるでしょうか。虚構が矛盾の間を生み、そこで苦しんでいる人は本当にいないと言えるのでしょうか。

VTAが矛盾をかかえていることは明確な卒業がない、在学期間が不明瞭という事実に顕著に現れています。もちろん同社のライバーとしてデビューすれば卒業生として扱われています。しかしデビューできなかった(と思われる)学生はいつのまにか姿を消したままであり、卒業とはされず外部にも告知されることもありません。

また別の世界に転生した元学生(と思われる)も前世のVTA名を名乗ることはしないわけで、VTA卒業においての資格や証、または特典などは一切ないということでしょう。(一定のNDAを課されている可能性もあるでしょう)こうしたことはVTAの謳うVTuber養成機関の文字には「自社との契約に限る」の意味が含まれていることを示しています。(あるいは狭義のVTuberに徹しているだけなのかもしれませんが)

このようなバーチャルの矛盾は結果的に同社の新人ライバー発掘事業をVTuber養成サービスに偽装させるという馬鹿げた発想を生んだのでしょう。所属学生は研修を受けているという建前のもとでライブ配信をしながら、実質的に無給で長期のオーディションを受けさせられることになっているのではないでしょうか。

スポンサーリンク

バーチャルな仮説

さて、もちろん部外者としてはVTAでこの夏、何が起こったのか知るよしもありませんし、変に憶測でものを言うことは避けるべきなのでしょう。しかしVTA2期生を応援していた身として、彼らがどうなったのか気になってしまうことは否めません。

10月になり運用見直しによる中断も終わってVTAの活動が再開されましたが、責任のありそうな誰もこの件について説明するつもりは無いようです。このまま何も無かったことになり、彼らの存在すらバーチャルなものになることを危惧してしまいます。

そこでこちらもあくまでバーチャルな話として、個人的に考えうる仮説を書き連ねながら状況を分析してみたいと思います。

オーディション対策コミュニティ説

そもそも前提条件としてVTA生は「にじさんじのライバー」になることを望んでVTAに参加しているはずです。ですから「半数のメンバーが除名相当の処分を受けるに値するようなルール違反」を悪意をもって共謀するような事態はとうてい想定できません。

またこのような大規模な処分を実行すればVTA自体の存続可能性のみならず、VTA設置の経営判断そのものが疑われることになるでしょう。それにもかかわらず実行されたという事実は「情報管理の徹底」を反動度外視で至上のものとするような価値観がそこになくてはなりません。

つまりルールの意味を履き違えた杓子定規な責任者がいたとか、なにか勘違いしたガバナンス思想をもった管理職がいたなどで、ルール違反に対する過剰反応という側面が付属していなければ、この事態の半分の説明も付かないと思います。

だいたい処分が一律除名であるというのはいかにも融通が効かない印象をうけます。(とはいえ一部は停学的な処分であり、いずれ復学するような可能性もないわけではない、などと言い出すときりがないのでやめておきます)

さて上記のおしらせが掲載された当時、ネットの噂話でメンバー同士のグループチャット設置が原因ではないかという説が出されていました。グループチャットの存在自体はライブ放送で一部のメンバーが普通に話をしていたのでおそらく問題はなかっただろうと思います。今どきコミュニケーションツールなしでVTuberはできないでしょうから。

とはいえ何らかのネット系のサービスの利用が情報管理上の問題になった可能性は高いでしょう。そうでなければこれほど被処分者が多数に及ぶわけがないからです。

そこで思い出したことがあるのですが、あるVTA生のライブ放送においてVTAに入るためのオーディション対策の話題になり、専用のコミュニティの存在をボカしながらも匂わせたということがありました。(アーカイブは既に消されているので確認はできません)

VTAに入るためのオーディション対策なんてずいぶん狭いニーズに応えるんだなと、そのときは思っていたのですが、実際そういう問い合わせが多くメンバー本人にあるのでしょうね。そして例えば4期生の半数がそうしたオーディション対策コミュニティーに入っていたことが入学後に発覚したとしたら何らかの対応がなされる理由にはなり得るかもしれません。

これを問題とするかは考え方次第だと思います。だいたいオーディションと称するものは公正さにおいては疑わしいことが多いものです。応募資格や審査基準が事前に示されていればマシなほうでしょうし、それが公正に行われる保障はまずありません。受賞者が事前に決まっていたり、合格者の人数などもあいまいなことが多いです。そのようなオーディションに臨もうとする人が情報を求めてネットのコミュニティーに入ることを咎めることはできないでしょう。

一般の就職活動でも情報サイトや企業ごとの情報交換用の会議室は普通にあるでしょうし、大学受験などでも、在学している先輩にキャンパスの様子を質問するなんて光景はありふれたことです。VTAはそうではないと言われればああそうですかとしか言いようがないですが、そこに合理的な理由があるとは思えません。

この仮説からの想像で最悪なのは、おそらくメンバーは後輩のために在学中にコミュニティを設置しただけにすぎないということで、さらにタイミング的にデビュー待機中の人が何人かいた可能性があり、その関わり方によっては巻き込まれたのかもしれず、4期生の多くに至ってはコミュニティに入っていたという事実のみをもってアウトとされたと考えるしかないということです。

もちろんこれは妄想である可能性のほうが高いのでしょうし、むしろそうであって欲しいのですが、他にありそうな仮説が思いつけませんでした。考えれば考えるほどこんな誰も得をしない処分が必要になる理由なんてあるわけがないという確信が強まる一方です。早急に何らかの説明がなされるべきだと思います。

以上はあくまでバーチャル上の話です。

スポンサーリンク

飽和戦略のバーチャル

ここからは関係のない話になりますが、タレントのマネジメント事業について素人なりに少し考えてみたいと思います。

最近、某芸能事務所が話題になっていますが、基本的にタレントの仕事の仲介業でしかない会社がどうしてあれほどの影響力と収益力を持つことができたのでしょうか。

おそらくメディアを排他的に専有できたという点と、提供し得るタレント性の代替性が低いため独占的な市場を獲得できた点が大きいのでしょう。時代的にもテレビがメディアの中核としての機能を強めたため、市場を管理しやすい環境が揃っていたこともあるでしょう。

さてこれがネットの動画やライブ配信におけるタレントのマネジメント事業ではどうかと言うと、かなり条件が異なっていることに気づきます。メディアである動画サイト全体を専有するようなことは不可能ですし、求められるタレント性も多彩なものになります。もちろんタレント側を独占するようなこともできません。

折しも大手のYouTuberマネジメント業者が身売りしているというニュースもありました。おそらくネット時代のタレントのマネジメント事業は市場を独占できるようなものにはならないのでしょう。

そもそも今後のコンテンツはUGCと言われるような個人ユーザーが制作するものが中心になると言われており、企業が資金や資源を費やして制作するコンテンツは次第に収益を得ることが難しくなってゆく可能性があります。

おそらく個々のタレントの主導権は強くなり、その中でUGCなどを下地として利用しつつ視聴者の求めるコンテンツのムーブメントの中心に機動的に位置取りができるような企業だけが残るのでしょう。

こうした前提に立って考えると、VTuberのタレントマネジメント事業は既に岐路に立っているのだと思います。誰でもVTuberになれることを売りにする段階はもう終わったでしょうし、VTuberである事も目新しさはなくなりました。

もちろん歌って踊れてゲーム実況ができるようなマルチな才能を見せるVTuberは今後も人気が集まることでしょう。そうした集団をまとめて品質の高い商品性を保つことは一定の技術力を持った企業にしかできないことだと思います。

一人の視聴者として意見を言うならば、ある程度専門的な知識もったVTuberがもっと内容がある配信をしてもらうほうが良いのかなというふうにも思います。おそらく特化した才能や能力を活かして企画力があるタレントが増えてくるのでしょう。

飽和戦略などという言葉は存在しませんけども、取ってつけたようなキャラクター性をもったVTuberを乱造してユーザーの視聴時間を埋めようとするような馬鹿げた経営方針を取っている企業があるとしたら早期に改めるべきだとは思います。

少なくとも自分たちの扱う商品の名称にバーチャルとついているとしても、それは生身の人間なのだと理解はしていないといけません。そうでなければ結果は見えているようなものです。

狩生

  ■ フリーダウンシフター ■
  ■ 減速ライフを実践中! ■
  ■ のんびり生きましょう ■

読書 / 英語小説 / 古代史研究 / ドロー系 / ウォーキング / python / 脱消費主義 / 新米ブロガー

著者をフォローする
VTuber
スポンサーリンク
著者をフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました