カメレオン
2022年3月リリース曲。ドラマ「ミステリと言う勿れ」主題歌。
普段テレビは見ないのですが「ミステリと言う勿れ」は何回かTVerで視聴した記憶があります。原作漫画は良いのでしょうけど、久々に見るドラマはどうしようもない感じにあふれていて、それ以来テレビドラマは一切見ていません。主題歌をKing Gnuが歌っているとは当時は意識していませんでしたが、今から考えれば唯一の救いだったのかも。
歌詞分析
King Gnuの「カメレオン」は変わりゆく「君」と変われずに立ち尽くしている「僕」との対比を軸に描かれた、切なくも美しいラブソングです。
失恋の歌とも取れますが、密かに想っていた同級生の垢抜けた様子に戸惑いを感じているだけのようにも読めます。色彩の変化、時間の流れ、記憶との隔絶。変われない自分を意識してしまうことで動揺を感じている、若者の心理を克明に描写している歌詞なのだと思います。
カメレオン
タイトルのカメレオンはもちろん周囲の環境に合わせて自身の色を変える生き物です。この楽曲においての「君」を象徴する生物ということになります。
心変わり色変わり 軽やかに姿を変えたのは
この変化には「君」の自立や成長としてのポジティブな意味合いと同時に「僕」から見て、手の届かない存在になっていく喪失の痛みもはらんでいます。
歌詞の中盤では、久しぶりに通話画面で再会した「君」が描かれます。
「時を経て通話画面に映った君は もう僕の知らない君でした」
ここには人間的な関係性の断絶とネットワーク越しの再会という現代的な距離感が表現されている印象があります。かつて近くにいた「君」は今や画面越しで、しかも幸せそうに笑っています。変わっていくのは自然なことだと分かっていても、そのギャップに「僕」は取り残されてしまいます。
塗りつぶされる記憶
「何度でも 何度でも 塗りつぶして」
「汚れた悲しみの 上から白い絵の具で」
塗りつぶすのは記憶を上書きしたいという願いのようにも、忘れようとする行為にも思えます。しかし、常にその上に新しい色を重ねてゆくしかないという現実と「再生」のイメージが含まれていることを感じます。
君の正体はミステリー
「突き止めたい 叶わない 君の正体は 迷宮入りの 難解なミステリー」
もちろんこのフレーズはドラマのタイアップから来ているのでしょうが、ここに歌詞で広がっている情景とは若干のズレを感じなくもありません。この表現から読み取れる「僕」の心情は「君」の色を変えてしまった原因、つまりはカメレオンの色を変えてしまった周辺の環境を知りたいということになるからです。
そこにはやはり「嫉妬」という感情があるはずですが、オッサンの一人としては、こういう表現には若者特有の感性だよなあという感慨を持ってしまいます。
「カメレオン」は一見すると失恋の曲になっていますが「変化についていけていない自身」への焦りが描かれていると思います。その背景には、色のイメージ、夕暮れ、絵の具、キャンバスといった美術的なモチーフが使用され「記憶」と内面や外面の「変化」が色として表現されています。
変わりゆく「君」も自身の色を塗り重ねようとする「僕」も、どちらもいずれカメレオンのように変わってゆくのでしょうし、その変化の謎はミステリーだよね、ということなのでしょう。曲調に対してはかなり爽やかな歌詞だなと感じました。
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