「Carrying Happiness」の歌詞はあまり考察の余地がないように思っていたのですが、いろいろ他のことと絡めながら考えてみると、それなりに味わいがあるのかもしれないとも感じられるようになりましたので、分析をしてみます。
Carrying Happiness
2025年7月リリース曲。東京ディズニーリゾート(R)「サマー・クールオフat Tokyo Disney Resort」
楽曲について言えることはあまりないのですが、きらびやかな感じで、シンプルにまとまっている曲だなという印象です。この曲が実際に何に使われているのか知らないのですが、タイアップのディズニーのCMなんかにはぴったりだなと思います。大森のボーカルにものを言わせている感じもあり、ミセス以外の人が歌うのは難しそうですね。
あまり知らなかったのですが、東京ディズニーリゾートは東京ディズニーランドと東京ディズニーシーおよび関連のホテルなどの施設をまとめて言っているものなのだそうです。
ディズニーといえば映像や音楽コンテンツ産業では世界的な大手という認識ですが、国内アーティストからしても、タイアップするというだけで大変な意味をもつ存在なのでしょうね。
歌詞分析
「Carrying Happiness」は大森詩作の特徴でもある断片化した歌詞になっており、ストーリー構造は意識されてはいません。抽象的なイメージを連続的に描くことで、映像的な効果を狙った歌詞になっています。
サビ部分は遊園地のアトラクションに乗っているようであり、それを繋いでいるパートはミュージカル的な歌とダンスの中で浮遊感が演出されて、ディズニーランド、ディズニー映画、エレクトリカルパレードなどの一昔前の「ディズニー」からイメージされるようなファンタジックな要素をふんだんに盛り込んだものになっています。
歌詞のメッセージとしては最後の「世界はHappinessで満ちてる」なのでしょう。大森詩作らしく、これも単純な言及であるような表現で、特に強く主張している印象はありません。
「Carrying Happiness」の歌詞の特徴となっているポイントは、まずタイトルの「Carrying Happiness」などに見られる、Happiness の扱い方にあります。つまり Happiness が何か実体のあるもののように表現されていて、「私は今日も乗せてる」の目的語は Happiness であるはずですし、Rideするモノや世界に満ちるモノ、持ち歩けるモノとして Happiness が使われています。
これは詩的表現なので不自然だというものではありませんが、なぜこのような扱いになっているのかは気になるところです。
大森詩作における「幸せ」
「Carrying Happiness」の大森詩作上のお題を推定してみましょう。とりあえずディズニーリゾートとのタイアップなのですから「ディズニーの描く世界観」に沿ったものであることは前提としてあるでしょう。さらには具体的なテーマや文言の指定もあったのかもしれません。
タイトルの「Carrying Happiness」と歌詞の内容はかなり整合性があるものになっています。おそらくHappiness を持ち歩くものとするコンセプトは大森の発案でしょうけども、Happiness 自体は発注の中にあったのではないでしょうか。そしてこれはどこまでも想像でしかないのですが、オーダーは正確には「幸せ」ないし「幸福」という日本語であったのではないかと考えています。
と言うのは、大森詩作において「幸せ」という言葉は特別な意味を持つからです。以下はミセスの主な楽曲歌詞で「幸せ」ないし「幸福」が出てくるものをピックアップしたものです。
限りある恋だとしても
出逢えて幸せです (点描の唄)
ああ なんて素敵な日だ
幸せと思える今日も (僕のこと)
幸せな時間をどれだけ過ごせるかは…
微々たるものでも愛に気づけるか。 (StaRt)
貴方の幸せを分けてほしい (ケセラセラ)
みんなの夢は 私の幸せ (私は最強)
幸せを見逃しちゃうけど
きっと結構ありがち
足元にあるもの (ダンスホール)
測れはしない
幸福の意味付けをしてるんでしょう? (ANTENNA)
教えてよ
人は何故、「幸せ」と追いかけっこしてるの? (CHEERS)
今日までの幸せ数えたら
なんてこと無いのです。 (メメント・モリ)
全員一致で拳を掲げ
幸せだと言えるかな
いつになったら「幸せ」の意味に気づくの (月とアネモネ)
すべての楽曲を調べたわけではないのですが、基本的に歌詞に「幸せ」という単語が使われることは少なく、「幸福」についてはほぼ無いと言って良いと思います。また大森詩作における「幸せ」は無条件に得られるというほどのものではないのですが、足元に隠れていて、それに気づくか気づかないかという問題になることが多いようです。
もちろん歌詞にはそれぞれに文脈があり、複数の楽曲を通して一貫性があるようなものでもないでしょう。(個人的には楽曲アーティストにはこの曲の「愛」とあの曲の「愛」は別のものだと言い切ってしまう特権もあるとも考えます)ただ大森詩作においては複数の歌詞で使われる言葉に責任を持とうとする傾向があり、一貫性にこだわっている言葉がいくつかあるように見えます。「幸せ」はその代表的なものだと思います。
つまり大森詩作において「幸せ」をどう定義するかについては、作詞活動を通しての問題意識として高くあり、そう簡単には言い切ることができない類のものなのでしょう。ですから、歌詞に「幸せ」が使われるときはそれは歌詞の中心的なテーマになっているのでしょうし、あまり関係のない文脈では「幸せ」という単語の安易な使用は避けられているのだろうと思います。
一方で、大森詩作ではタイアップを絶対的なものとしている気配があり、控えめに言っても制作の優先順位としては高いように思います。そうなるとタイアップのオーダーなどで「幸せ」が指定されてしまった場合は大森詩作としてはどうなるのでしょうか。
もちろん「幸せ」がNGになっているわけではないでしょうから、大森としては「幸せ」をテーマにした歌詞を書くことにはなるのでしょうが、ディズニーが打ち出す世界観においての「幸せ」は必ずしも大森詩作の描きたい「幸せ」とはぴったりとは重ならなかったのではないか、というのが私の推測です。
つまり「幸せ」を「Happiness」に置き換えることで、大森詩作における「幸せ」とは別物であることを強調しようとしているのではないでしょうか。言葉が浮いてしまわないように Fly や Ride などの英単語が入れられ、えらく取り外し可能なポータブルな物体として描かれることになっているのではないかと想像しています。
一般的な解釈の「幸せ」は、誰もが求める対象であり、何かしらの代償を払ったうえでようやく手に入れられるものというところでしょう。それに対して、大森詩作の「幸せ」は、誰かと分かち合うもので、誰もが本当は既に持っているものになります。「Carrying Happiness」の歌詞も基本的にこれに沿っています。また大森詩作における「幸せ」は「お布団」などにある素朴で日常的なものでもあります。
ディズニー映画などでも、主人公は何らかの挫折や困難を経験した上で、最終的に手に入れるものとして「幸せ」が置かれているはずです。ただタイアップで演出が期待されているところの「幸せ」はレジャー施設である「夢の国」が表現しているイメージに沿った「幸せ」なのであり、それは言ってみれば作り物っぽく、非日常的な「幸せ」でもあるでしょう。歌詞に描かれる「Happiness」はまさにそうしたものとしてあるように見えます。
ですからここで大森は詩作上の都合と、タイアップ上の都合を、「Happiness」を持ち込むことによって上手く両立させているのだと思います。このあたりはタイアップ職人としての技が光っているところでしょう。
届かない思いとは??
「Carrying Happiness」の歌詞には、もう一つ若干の違和感を感じる部分があります。それは曲構造で言うブリッジ部分の歌詞になります。
いつしか置いてきた
大切な宝物を
探しに行こう
思い出しに行こう
届かない思いが
あるって知れたから
夢のような
時間を抱きしめて
「Carrying Happiness」にはライブ版等のためなのか複数のショートバージョンがあるのですが、いずれも上のブリッジ部分の歌詞は含まれていません。ですから歌詞のストーリーラインから言えば重要度は低いはずなのですが、その割には意味深な感じがします。
また「Carrying Happiness」の歌詞はストーリー構成自体が断片化の影響で機能していないので、歌詞構造的な意味だけのはずです。
前段の「宝物」と「思い出し(思い出)」については大森詩作ではおなじみのイコールの存在であり(「ライラック」の歌詞にも出てきました)、「Carrying Happiness」の中では歌詞を埋めている以上の意味は特になさそうです。
後段の「届かない思いがあるって知れたから」も、おそらく楽曲上の意味はないはずなのですが、特に引っ掛けているリファレンスはなさそうですし、歌詞世界の構成に関わってくる可能性がある内容ですよね。少なくとも「届かなかった何かしらの思いを抱えた存在が居る」ということを示唆しているので。
つまり何が言いたいかと言えば、「Carrying Happiness」の歌詞全体のコンセプトから言うと「届かない思い」というフレーズはかなり異質に感じられるんですね。もう少しディテールがあれば深みも増したかもしれませんし、いっそフレーズ自体を不要とするかです。これは大森詩作の存在感を示そうとした結果かもしれませんし、なにか関連する曲などがあるのかもしれません。



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