Wiredによるとアップルは広告代理店事業を強化しようとしているそうです。アップルはブランド戦略において、広告に対して抑制的な立場を堅持してきたと思われますが、スマートフォンなどハードウェア事業の伸び悩みからその戦略に変更を加えようとしているのでしょうか?
There’s a side to Apple most iPhone owners don’t know. There’s Apple the hardware company, the one that has spent the past several weeks showing off new phones, a more rugged Apple Watch and some confusing new iPads. Then there’s the other, quieter Apple, focused on something of a dirty word: advertising. And that part of Apple is getting bigger by the day
“アップルには大半のiPhoneユーザーの知らない一面がある。この数週間でも新型の携帯電話群、いささかゴツくなったアップルウォッチ、少し紛らわしい新型iPadをたて続けに披露しつづけたハードウェア企業という一面。もう一つは少し目立たない、まあはっきり言ってしまえば「広告」に注力しようとするアップル。そしてその一面は日に日に大きくなりつつある。”
https://www.wired.co.uk/article/apple-is-an-ad-company-now
アップルは今年6月App Storeのトップページに広告を設置しました。8月には自社製品内の広告システム構築に関する求人を行っています。10月にはApple TV+の広告を募集した形跡があります。このようにアップルはこれから広告事業に力を入れようとしているように見えます。
同社のハードウェアの性能は上がり続けていますが、性能向上あたりの製造コストが高騰しつつあり、ユーザーの需要とのバランスが崩れかけています。おそらくアップルはハードウェア収益への依存度を下げることになるでしょう。
スマートフォンの技術革新は行き詰まりを迎えつつあり、需要についても鈍化が予想されています。市場の状況から見ても、アップルが収益源を他に求めても不自然ではありません。アップルのサブスクリプションビジネスは驚異的な拡大をしており、そこからの広告収益を考える必然性はもちろんあるでしょう。
しかしアップル製品における広告の増加は、同社の収益を支えている忠実な顧客の忠誠心を低下させてしまう危険性があります。またCEOのティム・クックはかつて広告主体のビジネスモデルを否定的に語ったことがあり、広告の氾濫はカスタマーとの信頼関係を裏切るものと考えているのでしょう。
近年のアップルはiOSのプライバシー機能を強化し、他のビッグテックの広告収入に損害を与えています。またユーザーのオンラインにおける行動の追跡を困難にしたため、Metaは多額の収益を失ったと言われています。アップル自身のパーソナライズされた広告は年齢や性別の制限を受けないため、ドイツなどの規制当局によって調査を受けています。
昨年4月に導入されたATT(App Tracking Transparency)はユーザー追跡のためのデータ共有に関しての許諾機能ですが、アップルはATTの規則は同社を含むすべての開発元に等しく適用され、ユーザーの追跡はしないと明言しています。アップルの広告のポリシーはATTに沿ったものになるのでしょう。
総合的に考えると、アップルの広告事業は多くの規制や規則に縛られており、期待されるようにはうまくはいかないのではないでしょうか。アップルのサブスクリプションサービスはそれだけで十分な売上があり、安易な広告の導入はリスクを生むでしょう。もちろん今後も様々な実験的な試行はなされるでしょうが、忠実な顧客を失うようなリスクまでは取れないのではないでしょうか。
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