今年の日本国内の夏も猛暑続きでしたが、世界的にもますます気候変動による影響が大きくなっているようです。この記事ではThe Revelatorのクリスティーン・マクドナルド氏の記事を参考に、記録的な熱波の襲来について調べてみました。
Extreme heat kills more people each year than any other type of weather-related event. Last year when the Biden administration launched a federal plan to address the problem, White House climate advisor Gina McCarthy called extreme heat a “silent killer.” Statistics show that annual heat-related deaths in the United States surpass mortalities from tornadoes, hurricanes, flooding, and cold winter weather combined, though the problem gets much less attention.
“猛烈な熱波は他のどのような異常気象よりも多くの人々を死に至らしめます。昨年、バイデン政権がこの問題に対処するための政府の計画を立ち上げたとき、ホワイトハウスの気象担当顧問であるジーナ・マッカーシーはこの猛烈な熱波を「サイレントキラー」と呼びました。統計によれば、米国における年間の暑さに関連した死者数は、竜巻、ハリケーン、洪水、冬の寒さによる死亡者数を合わせた数を上回っています。しかしこの問題はあまり注目はされていません。”
https://therevelator.org/heat-island-solutions/
気候変動による気温の上昇により、夏の数ヶ月はますます暑くなっており、多くの人々は熱によって致命的な病気になるリスクにさらされています。
ニューイングランドのボストンでさえ、2050年までに最高気温が華氏90度(摂氏32度)を超える日が年間42日にもなると予想されており、世界中の都市は何らかの対処を求められています。
猛烈な熱波の危険性
ヒートアイランドの影響
猛烈な熱波は、都市の中心部分の「ヒートアイランド」によってその危険性が増幅される可能性があります。ヒートアイランドは都市の他の部分より8度から16度も高くなる現象です。樹木がなく建物や舗装道路が多い場所で発生し、世界中のほぼ全ての都市で起こり得ます。私たち自身が作り出した都市の構造によって起こる災害なのです。
熱波とヒートアイランドの影響により、致命的で深刻な健康リスクが増しています。昨年の夏、熱波が太平洋岸北西部を襲ったとき、オレゴン州、ワシントン州、ブリティッシュコロンビア州では約800名が亡くなりました。
極端な暑さにさらされると、糖尿病や心臓病、呼吸器系、腎臓の病気などの疾患を持つ人々の医療上の緊急事態を起こす可能性があるため、熱に関連する真の死亡率は実際にはさらに高い可能性があると言われています。こうした健康被害は暑さによる災害の統計に必ずしも含まれるとは限らないからです。
幼い女性、高齢な女性、妊娠中の女性、暑い中で活動する時間の多い人、屋外で働く人、家を持たない人、冷房装置を導入する余裕のない人々は、気温が上がるたびにエアコンの効いた家などに退避できる人たちに比べて高いリスクに直面しています。
研究によると、一部の薬は熱感受性を高めるため、極端な暑さは薬の副作用を増幅する可能性があります。熱にさらされると健康な若者であっても認知機能が低下する可能性が高く、職業的な知識の習得や学習が困難になり、収入を得る機会損失が発生し生涯に渡る影響が出てしまいます。
ヒートアイランドの不公正
これは環境問題における社会正義の話でもあります。
世界中の都市のヒートアイランドが主に低所得者の住む地域に発生することが研究で明らかになりつつあります。米国においては、これらの地域には圧倒的に有色人種や移民が住んでいます。またこれらの地域では熱中症にかかりやすい病状を持つ人の割合が高くなる傾向があります。
ヒートアイランド現象とレッドラインとして知られる米国の差別的な貸付制度の歴史を結びつける研究もあります。レッドラインは過去の連邦住宅政策で、前世紀に有色人種コミュニティで住宅ローンや民間投資を大幅に減少させました。
レッドラインは1968年に非合法化されましたが、この過去の政策は現在もコミュニティに悪影響を及ぼし続けています。米国の100以上の都市ではこのレッドラインが引かれていた地域にヒートアイランドが発生し、近隣地域のほうが遥かに涼しいという複数の研究結果が過去数年間に発表されました。
世界規模の暑さ問題
暑さの問題は米国のコミュニティだけにあるわけではありません。貧しい国ではヒートアイランドに住む人々、特に屋外で働く人々にとって大きな課題を抱えています。
今年はじめにインドとパキスタンで発生した熱波では、気温が華氏122度(摂氏50度)に達し、少なくとも90人の命が奪われました。人々は働くことができず、入院してしまう人も多くなりました。子どもたちは学校にいけませんでした。
常に暑い屋内にいることになる学校に通う子どもたちは、暑さによって学習能力や機能を損なってしまうと、健康上の問題に加えて長期的な経済的影響を受けてしまうことになりかねません。熱波がより深刻で頻繁になると、社会全体の経済的な被害も大きくなってくるでしょう。
すでにその水準にある可能性もあります。デリーでは、この春の熱波により最高気温が華氏100度(摂氏38度)を超える日が100日近く続きました。
気候変動と暑熱のリスクは国際的な正義と平等の問題でもあります。気候温暖化の影響を最も大きく受ける国は、気候変動を引き起こす原因の多くを作った国ではないからです。
解決策の模索
世界各地で暑さ対策が始まっています。
インドのアメーダバードは南アジアでの取り組みを主導して2013年に熱対策計画が策定されました。この中には市全体の建物の屋根材や塗料に、太陽光線を反射するために明るい色を使用するクールルーフプログラムが含まれています。もちろん長期的には建物対策だけではなく緑地を増やすことが大切になるでしょう。
このような都市計画による解決策は、自然発生的に都市部が増殖することの多い発展途上国では困難であるため、地域によっては古来より伝わってきた生活の知恵を活かした建築によって対策を行っています。
暑さと健康に関する意識を高めたり、弱い立場にある住人を助けたり、暑熱関連死の主な原因に対処するための建築基準法の変更など、行わねばならない対策は数限りなくあります。
米国での対応
米国でも、連邦政府と一部の都市は動き始めています。しかしエアコンへの補助が中心で、散発的で対処療法的なものになっているようにも見えます。
ボストンの気温回復ソリューション計画ではアンケートを行い、回答者の90%が夏の期間に自宅が暑すぎると述べています。黒人の42%とラテン系住民36%が常に家が暑すぎると答えているのに対し、白人の住人は24%でした。
市当局は当初、低所得の住人が冬の期間暖房を維持できるようにするためのプログラムを暑さ対策に適用していました。いまでは住宅に関する市の部局では、エアコンだけでなく夏の光熱費補助金を提供するすることを検討しています。これは家に冷房施設を導入するのに、エアコンの設置費用よりもエアコンのランニングコストが障壁になっていることを認めたものです。
昨年の太平洋岸北西部で致命的な熱波が発生した後、オレゴン州では貧困層の住民のためのエアコン設備を購入するために500万ドルを振り向ける法律を可決しました。
連邦政府レベルでは、保険社会福祉省が低所得家庭エネルギー支援プログラムからの資金として州に3億8,500万ドルを注入する計画を発表しました。この一部は夏の冷房費などの公共料金の未払請求書の支払いを肩代わりするものになります。
連邦政府、州、市も住民がエアコンの追加、アップグレードの費用を負担できるように、耐候性支援と無利子の住宅改善ローンプログラムを展開しはじめました。
本質的な対策
エアーコンディショナーによって室内からの排気が外気を加熱し、動作させるために必要な電力が気候変動をさらに促進してしまうため、エアコンを増やすことは本質的な解決策にはなりません。専門家は住宅、オフィス、都市全体を再設計する必要があると述べています。これは時間と費用のかかる作業になります。
ニューヨーク、シカゴ、ポートランド、ロサンゼルスなどの米国の多くの都市では、屋根に反射材を使用したり、屋上に植物を植えたりして室内温度を下げ、空調コストを削減する「クールルーフ」または「グリーンルーフ」プログラムを追加しています。
2018年、ワシントンDCは2032年までに温室効果ガスの排出とエネルギー消費を50%削減しようと、建物のエネルギー効率を向上させるためのより厳しい基準を可決しました。
ボストンでは、集合住宅の所有者に冷暖房システムのアップグレード改修を促すためのプログラムに2,000万ドルを費やしました。市の熱対策計画ではタスクフォースの編成と、長期的解決策を備えた「より広範な暑さ対策戦略」の策定を求めています。
市は非営利団体と協力して、低所得地域の世帯や中小企業に機器のアップグレードや改良の費用を補助を提供しています。この計画には26の戦略が詳述されており、建物の所有者がエネルギー効率の高いヒートポンプと冷房の効率を上げる屋根を設置できるようにするための助成金プログラムや、バス停に日陰を提供するための植林や日除けの設置が含まれています。
データ分析とマッピング技術の支援により、多くの都市がヒートアイランドに注目し、地域の現実に合わせた解決策を練るようになってきました。シアトルのバス会社ではヒートマッピングデータを使用して、特に影響を受けている地域を選定し、バス停の設計と設備を案内しています。
マサチューセッツ州チェルシーでは「クールブロック」プログラムを立ち上げました。このプロジェクトでは木を植え、アスファルトの道路を明るいグレーの素材で再舗装し、歩道を白いコンクリート、多孔質の舗装材、プランターなどで改修します。
全国の都市におけるヒートアイランドとレッドラインによる歴史的な差別、熱波による健康への脅威と歴史的な過ちと同時に対処することは可能だと科学者たちは言います。道のりは長いですが、コミュニテイと自治体が協力すれば、次の世紀以降にプラスの影響を与える決定を下すことはできるはずだと。
まとめ
気候変動による熱波の影響は思われているよりも世界的な規模で拡大しているようです。当面は定期的に深刻な被害に見舞われるようになることは避けられないかもしれません。
この記事で伝えられている米国の対策は、エアコンの補助であったり、場当たり的な感じで対策としては心もとない印象を持ちました。米国では社会的な問題と絡んでどれだけ正面から気候変動の問題に向き合えるかも怪しいようにも感じます。
とりあえず来年の夏のことを今から考えて、しばらく絶望的な気分に浸ってみようと思います。
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