雨燦々
2022年11月リリース曲。ドラマ「オールドルーキー」主題歌
たった今、調べるまで昨年クリープハイプのトリビュートアルバムに参加していたヨルシカの「憂、燦々」とゴッチャになっていて、しばらく??となっていました。少し考えれば違う曲であることはわかるだろうに、ボケているなあ。
そんなわけでここではじめて聴きましたが、King Gnuにしてはかなりポップ調な曲ですね。個人的に好きになれそうな曲だと思いました。
歌詞分析
「雨燦々」は変わりゆく時代の中で迷い、悩みながらも、人生という名の「でこぼこな道」をひたむきに走り続けようとする意志と、その過程で降り注ぐ困難(雨)さえも力に変えていくような生命力を、瑞々しく描いた作品だと思います。
この曲はKing Gnuの青春讃歌シリーズの一つとして位置づけられるのではないでしょうか。テーマは「夏」があり「若者」へのメッセージ曲ですよね。King Gnu、常田詩作においてはこの動機の曲は小細工なしで真摯に、かつストレートに書かれるのだろうと思います。
2022年の夏はコロナ禍の緊急事態宣言があった翌年であり、まだ自粛ムードや混乱が続いていた頃でしたね。そうした最中に特に高校生などの学生であった人たちに向けた曲なのではないかな、というのが最初の印象でした。「臨時ニュースの報せでは どうやらこれから土砂降りの雨が降るらしい」の辺りが特にそう感じさせます。
もちろん、人生の選択、困難、希望といった普遍的なテーマを扱っていることや、多くの人が共感できる言葉で綴られているため、幅広い層に届く力がある曲だとも思います。特に迷いや困難を抱えながらも前を向こうとする人々への力強い応援歌となっています。
また困難の象徴として「雨」を使っていますが、単にネガティブなものとしてではなく「燦々」と輝き、浄化作用を持ち、生命力を感じさせるものとして描く視点は独創的だと思います。楽曲に深みとポジティブなエネルギーを与えています。
ドラマとの関連は例にもれずよくわからないのですが、「挑戦」や「逆境に負けない」「少しづつ着実に進む意思」「想いを繋げる」というイメージ自体はそこから来ているのかなとも感じました。
歌詞の要点としては、人生の複雑さを受け入れながらも、前を向いて進むことの尊さを中心に据えていると思います。割り切れない理不尽な状況下でも「この瞬間この舞台を 生き抜く」という主張は「千両役者」的な価値観であり、King Gnuらしい表現になっています。
「雨燦々」の語り手が一直線に「帰ろう」としているのはもちろん雨に降られているからなのですが、雨の中で錆びた自転車を漕いでいるという、この印象的なイメージからは、曲全体のメッセージは「前向きに進もう」という単純なものではなくて、「待っている人」に象徴される「大切なものや目的を見失わず進もう」というものであることを示しているはずです。
また「紡ぐよ」「繋ぐよ」で「過去」から「今」、「今」から「未来」へとバトンを誰かに伝えようとするわけですけど、時間軸の中の一つとして位置づけられた上で「選べよ」としているのは、この曲が単なる応援歌というだけではなく、時代の変化に対して責任ある大人であれというメッセージも含んだ曲でもあるのでしょう。
「戦争の記憶」を踏んでくる「雨燦々」の歌詞
「雨燦々」はどう見ても「夏」の曲です。一定の世代だけの話かもしれませんが「夏」は「戦争の記憶」と結びついているはずです。それは戦争を経験したということではなくて「夏」は終戦記念日などを中心にかつての「戦争の話」を語り継ぐイベントが多かったというだけです。
私自身は陰鬱な話が多いそうした時間をうんざりした気分でいただけだったような気がしますが、それでも「戦争の記憶」は頭の中に刻み込まれており、「暑さ」「入道雲」「夕立」「スイカ」「プール」「お盆」等の夏の風物と結びついて、それ自体が一体となってノスタルジックな記憶になっています。
そして「雨燦々」の歌詞は「夏」のイメージとともに、なぜかこの「戦争の記憶」まで呼び起こしてくるのです。それは歌詞に散りばめられたキーワードが微妙にそこと重なるからです。
「降り注ぐ雨燦々」「臨時ニュース」「生き抜く」「生き惑う」あたりは映像で見せられた「空襲」のイメージと、「過去を謳う悲しみ」「雨に濡れながら帰ろう」あたりは語り継がれた「戦争の話」のイメージとつながります。そして過去からのバトンを受け継ぐ動作が、戦争の時代を生きた人々がいるから今の自分たちが居るという感慨とつながるのです。
これはもちろんかなり個人的なノスタルジーでしかないのでしょうし、常田がそこを狙っていたわけもないと思うので、ただの偶然なのでしょう。一時期まではその辺りの郷愁を誘う曲も作られていたのですが最近では無くなりました。「雨燦々」がポピュラー・ソングであることもそう感じさせる理由なのかもしれません。
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