サカナクション “怪獣” 歌詞分析

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正直に言うとサカナクションは「新宝島」の人たちであるということぐらいしか知らなかったので、いろいろ調べながらの歌詞分析になりました。

サカナクションは小節ごとに休符の入る歌唱を特徴にしているという勝手なイメージがあり、一つ一つの言葉を大切にしておられるのかなという印象があります。

来歴を見るとサカナクションの近年の活動はいろいろと大変な状況であったそうで、ようやく落ち着いた活動ができる体制になったようです。

怪獣

実はアニメのことを知らないまま歌詞を読み始めたのですが、途中で漫画「チ。」のような物語を下敷にしてるのかなと思って調べると、まさにそのとおりでアニメ「チ。 ―地球の運動について―」の主題歌なのでした。

関連する言葉を直接使用しないで特定の作品を思い起こさせる楽曲や歌詞を作るのはなかなかできないことです。山口の作品への理解の深さがそれを実現しているということなのでしょう。

歌詞分析は歌詞単体で評価してゆくことに意味があると考えているため、基本的にはタイアップの世界観とは分けて考えたいのですが「怪獣」については原作「チ。」とは切り離せない関係にあるようなので、今回は複合するものという前提に歌詞の分析を行っていきたいと思います。

歌詞分析

まず表題の「怪獣」が何を指しているかが分析上の最大のポイントになるでしょう。もちろんそれは「チ。」の物語における主人公となる「異端者たち」であることは明らかですが、それを「怪獣」という言葉で表現することの意図がどこにあるのかということですね。

マンガ「チ。」は途中までを一度読んだだけなので不確かですが、おそらく原作には「怪獣」という表現は出てきていなかったかと思います。そうであれば作詞した山口の意図が必ずそこにあるはずです。

原作「チ。」の物語との関連性

原作の漫画「チ。」は地動説が唱えられる以前の時代を舞台に、社会から迫害されるなかで真実を追い求め、後世に真実を伝えてゆこうとする姿が描かれています。「怪獣」の歌詞のメッセージも真実を追求しそれを世界に伝えようとする人々の意思を、普遍的な人間の姿として描こうとする意図を読み解くことができます。

「チ。 ―地球の運動について―」は中世ヨーロッパを舞台に、地動説という革新的な思想に触れた人々が、権力や宗教的権威からの抑圧を受けながらも、真実を追求していく物語であったと認識しています。この作品の世界観を踏まえたものとして考えると、歌詞のフレーズはそれぞれ以下のような意味が読み取れると思います。

  • 「暗い夜の怪獣」: 当時の社会における無知や偏見、そして真実を隠蔽しようとする権力から見ると「異端者」となる人々を「怪獣」という比喩で表現しているのでしょう。社会の常識や固定観念を崩し、新たな視点をもたらす存在として破壊的な側面を持つことからの表現だと思います。
  • 「何度でも叫ぶ」: 真実を社会や後世の人々に伝えようとして諦めることのない人々の姿を象徴しています。原作で描かれる社会では、地動説を唱えることは異端とされており命の危険すら伴いました。また叫びは抑圧された状況下での抵抗の意思表示でもあり、真実を求める不屈の精神の表れと言えるのかもしれません。
  • 「知識」「秘密」: 地動説という「知識」は当時の社会にとっては「秘密」になり、公にすることが許されないものでした。歌詞の語り手はその秘密を共有しようとしますが、それは社会的なリスクを伴う行為でもありました。
  • 「未完成」: 知られていない新しい「知識」の存在は、今生きる世界がまだ完全なものではないという現実を突きつけます。しかし世界の真実を知ろうとする姿勢は、「まだ知られていない知識」が無限に存在するという認識のもとでしか生まれません。世界が未完成であるからこそ未来への可能性が開けるのであり、科学等の進歩を促す原動力となるのです。

「怪獣」の歌詞は世界の真実を追求する人々の苦悩、そして世代をこえた希望を描いたものとして解釈できます。歌詞の語り手は新しい知識に触れ、社会の常識や固定観念に疑問を持っています。発見した知識を広めることは社会的から抑圧される可能性を秘めています。それでも語り手は真実を叫び続けて、未来への希望を持ち新たな世界へと踏み出そうとするのです。

個の存在証明と社会への抵抗

少し拡大解釈的に考えると、この歌詞は社会的な抑圧に対する個の抵抗というテーマも内包していると思います。

  • 「怪獣みたいに遠く遠く叫んで ただ消えていくんだ」: 社会から厄介者の怪獣のように扱われ、個人の声はかき消されてしまう無力感を表現しているように感じます。自分の考えを持つ人々の中には異端者として迫害され、歴史に名を残すことなく消えていった人々も少なくないのでしょう。
  • 「でもこの未来は好都合に光ってる だから進むんだ」: それでも未来を信じて真実を追求してゆく意志の表明になるのでしょう。個人の声は小さくとも未来への希望を灯し続けることで、社会を変革する力になることを示唆しているのだと思います。

「チ。」の登場人物たちも社会の常識や権力に抗いながら自らの信じる真実を追求しました。その姿は現代の社会からの抑圧や決めつけなどに声を上げて世界の真実を求める人々の姿と重なります。

「怪獣」の歌詞は山口がアニメ「チ。」の世界観を深く理解して共鳴しているため、聴き手の感情を揺さぶって高揚感を与える作品として結実しているのでしょう。

知識への渇望、抑圧的な社会への抵抗、そして未来への希望といった普遍的なメッセージを力強く表現しており、単なるアニメソングにとどまらず、独立した音楽作品として高い評価に値すると言えるでしょう。

「怪獣」は聴き手に真実を追求することの難しさ、そしてその先にある希望について考えさせます。また、社会の常識や固定観念に囚われず自らの頭で考え、行動することの重要性を教えてくれます。

ただ原作の世界観を知らない聴き手にとっては、歌詞の一部が抽象的すぎるように感じられるかもしれません。しかし「怪獣」の普遍的なテーマは原作を知らなくても多くの人々に共感されるものあることは間違いありません。

まとめ

サカナクションの「怪獣」はアニメ「チ。 ―地球の運動について―」の主題歌として、地動説という歴史的なテーマを現代に蘇らせ、社会的な抑圧に対する個の抵抗、そして真実を追求する人間の普遍的な姿を力強く描き出した楽曲と言えます。

歌詞に込められたメッセージは、現実世界においても色褪せることなく私たちに問いかけていると思います。私たちは社会の常識や固定観念に囚われず、自らの頭で考え、行動しているでしょうか?私たちは真実を追求することの難しさを知ってもなお未来への希望を捨てずにいられるでしょうか?

「怪獣」というタイトルは既存の秩序を破壊し新たな世界を切り開く存在を象徴しているのでしょう。誰もが「怪獣」となり、個人が社会を変革していく力を秘めています。過去からの叫び声は私たちを覚醒させるでしょうし、未来へと響き渡った叫びは次の世代を新たな世界へと導くのでしょう。

狩生

  ■ セミリタイヤブロガー ■
  ■ 減速ライフを実践中! ■
  ■ のんびり生きましょう ■

読書 / 古代史研究 / ウォーキング / ダウンシフター / ドロー系絵描き / AppSheet / 脱消費主義 / 英文小説

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