プロスペクト理論とは
プロスペクトは予測とか期待する、という意味です、プロスペクト理論は経済学の中でも現実の人間の行動に則した理論であり、行動経済学の代表的な理論でもあります。期待効用理論の「期待(エクスペティション)」に変わるものとしてプロスペクトという言葉になったそうです。
行動経済学の書籍などでは、必ず出てくると言っても良い例え話ですが、100万円が無条件で手に入る場合と、確率50%で200万円手に入る場合を比べるというものがありますね。
この話は要するに、人々の行動は理論的な確率に沿っているわけではないし、認知バイアスによって「損失回避」と「確実性選好」側にかなり寄ってしまっているのだ、ということを示しています。
言い換えると、わたしたちは数学や統計的に正しいとされる行動からは少し外れた選択をしがちである、ということです。
具体的に言うなら、低確率では数字よりも過大に評価して利益を追求し、損失を忌避する行動をします。逆に高確率においては、数字より過小に利益や損失を評価する行動になるのです。
期待効用主義でいこう
もちろん理論が先であったわけではないでしょうが、現在の経済社会においては、このプロスペクト理論を活用したマーケティングや販促が行われています。
例えば期間限定品や各種のセールなどの多くは、「今買わないと損をする」(可能性が高い)と誤認させることによって、出費を迫るものになっています。(機会損失)
また同様に低い確率でしか発生しないものを、過大に評価させて購買を煽るものもあります。宝くじやガチャなどがそうですね。消費者は自分が当たる可能性を実際より高く見た場合の行動を選択しがちです。
こうした誤認に基づく経済行動は、社会全体で見ると資源の効率を低下させている可能性があります。そうでなかったとしても、個人主観で見るなら、期待効用に対して損失が発生していることには間違いありません。
わたしたちが賢い消費者になるためには、こうした意図的な誤認に基づいたマーケティングや販売促進手法は極力避けるように行動すべきでしょう。
それには、人間の性質を説明するプロスペクト理論を理解した上で、一つ一つの経済行動に対して意識的に、あるいは理性的に効用を計算しながら行動をしていく以外には方法はありません。
つまりプロスペクト理論を逆用して、理論を利用しようとする人たちの先回りをするのです。
そうすることによって他者には予測されない経済行動となり、期待効用の最大化が可能になるのです。
プロスペクト理論を裏返す
ところで、プロスペクト理論が本当に指し示しているものは別にあるのかもしれません。
価値と金額
プロスペクト理論の説明を裏返すと、人間の評価する「価値」と、物理的な「金額」との間は線形な関係になっていないのだろうという仮説を立てることが可能になります。
つまり、「価値」と「金額」は比例しないというわけです。
そうであるならば、わたしたちはやはり自分たちの考える「価値」について再評価するべきときにあるのかもしれません。お金が「価値」の絶対的なモノサシである時代は終わったのかもしれないのですから。
もちろん「価値」は結局のところ主観的なものです、期待効用と認知世界の判断を一致させる努力はつねに求められることになるでしょう。
プロスペクト理論では、損得の感情をどの程度感じるかを「感応度」という指標で表しているわけですが、感応度逓減性と言って金額が大きくなるほど損得の感じ方の度合いが減ってゆくことが示されています。
要するに資産の額(あるいは負債の額)が大きくなるほど、わたしたちは金額に比例するようには実感しないのです。
たとえば資産ゼロから1億円の場合と、資産2億円から3億円へと変化する場合では感覚が違うのだということです。
これを価値で考えるなら、資産が大きくなるほど金額あたりの価値は減ってゆくということです。
このことから、資産(負債)が増えることの喜び(不安)は金額が増えるにつれて減少してゆくと言えます。
お金持ちが資産をいくら増やしてもあまり満足しているようには見えないのは、こうしたところに原因があるのかもしれません。
参照点
またプロスペクト理論において定義される「参照点(アンカー)」は、人が価値を判断するときの基準として無意識に設定するものとされ、これを基準にすることで感応度は変化します。
たとえば100円の缶コーヒーをよく飲む人が、喫茶店の800円のコーヒーを高く感じてしまうというようなものですね。
重要なのは、これはあくまでも相対的なものでしかないということです。
マーケティングなどの販売戦略の裏側では、この消費者が持つ参照点を操作して、安く見せかけたり、価格の妥当性を強調することが、消費者に気づかれないうちに行われています。
プロスペクト理論を逆用するには
プロスペクト理論を消費者が逆用するためにはまず、参照点(アンカー)を操作されないようにすることが必要になります。そのためにも自分なりの「価値」判断基準をしっかりと育てる必要があります。
もうひとつは、こうした販売戦略を実践しようとする人々の手口をよく知っておくことです。
彼らは小さな損失をことさらに強調したり、機会損失といった本来なかったはずの損失まで作り出して、消費者の恐怖を煽ってきます。そして過大に評価させた損失を回避するための提案を持ち出してくるわけですね。
こうした戦略はある意味でパターン化されているため、冷静に話を聞いていればすぐに見破れるでしょう。わたしたちはもっと賢く、クールな消費者になれるはずだと思います。
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