Stable DiffusionはジェネレーティブAIの代表的なものです。このAIツールは生成したい画像に関連した言葉をいくつか入力すると、十数秒ほどでまったく新規の画像を無料で生成します。こうしたジェネレーティブAIがデジタル社会に与える影響は思いの外大きいのかもしれません。
ここではWalled CultureのジェネレーティブAIの影響についての記事を参考に考えてみましょう。
アートを蹂躙するジェネレーティブAI
現在のジェネレーティブAIを使用し、単純な言葉で作成した生成画像はアートとしての評価に値するようなレベルではありません。しかし呪文と言われる複雑なキーワードを使うことで印象的なアート作品が生成されることも珍しくはなくなってきました。
また記事や資料に使われる挿絵などの低レベルな画像で十分という用途はたくさんあり、今後のジェネレーティブAIの進化にともなって、イラストレーション市場から既存のアーティストが放逐される日も近いと予感させます。
逆にこうしたジェネレーティブAIをうまく使いこなせる人にとっては、新しい可能性が開かれることになるのでしょう。
すでにジェネレーティブAIの生成物はアート業界に影響を与えつつあります。特定のアーティストの名前をキーワードとして使うと、そのアーティストの画風に似た生成画像が生み出されます。これは多数のデータから深層学習により特徴を抽出するように作られたAIにとっては得意技のようなものです。
もちろんこれは独自の作風を持つアーティストにとっては死活問題になり得ます。おそらくAIの開発がこのまま進展するなら、どんなアーティストの作風の画像であっても誰でも簡単に作れるようになるのは時間の問題でしょう。
学習に使用されるデータを適切に選ぶ、あるいは透明性の確保というような制限で対策されることになるのかもしれませんが、明文化できるわけでもない特定の「特徴」を学習させないことは技術的にできないでしょう。
ジェネレーティブAIと著作権
アーティストの災難は制度的なものもあります。ジェネレーティブAIの生成物はアーティストの画風と似てはいても、アーティスト自身の作品ではないので著作権を主張することはできません。
その特徴を得るのに本人の作品から学習したかどうかで判断は分かれるようになるかもしれませんが、今のところは生成物はまったく新規に生まれたものであり、アーティストの著作物をコピーしたわけではないので著作権侵害ともなりません。
学習データの由来とその取り扱いがどうなるにせよ、いずれAIはオリジナルの新しい画風を手に入れることになるでしょう。またAIの生成物には著作権が付与されないこともあり、結果的にデジタル画像には著作権が意味のないものになってゆくでしょう。
つまり何かの用途で画像を利用したければ、その都度AIを使用して必要な画像を新しく生成すれば良いわけです。コストもかからず権利関係に煩わされることもありません。
こうしたAI生成物の著作権問題に対する対策は様々に考えられはするでしょうが、経済合理性を持った実効性のある制度変更はあまり期待できないのかもしれません。
変化するアートの価値
考えてみればアートの社会的な価値はこれまでも歴史的に大きく変わってきました。商業的な価値ばかりが強調されるようになったのはこの数十年のことです。
もちろん人間が何かを創作することの価値は今も昔も変わりません。ただ取引価格は市場環境の変化に応じて決まるだけの話です。たしかにアートを事業としたい人には辛い現実ではあるかもしれません。
いずれにしてもAIが作るアートはまもなく飽和して市場価値が無くなってゆくのでしょう。そうなればアーティストの作品は人間によって作られたオリジナルという点を評価されるようになり、NFTにするのも少しは合理性がでてくるでしょう。
下の記事ではアナログのアート(油彩、水彩画、大理石など)、文章、映像作品、音楽もいずれこの騒動に巻き込まれるかもしれないと予想した上で、クリエイターは著作権にはもはやあまりこだわらず独創性のある作品作りに専念しようとまとめています。
AIの弱点は文脈を本質的には理解していないことでしょう。そしてアートの本質には必ず文脈があり、アートの本当の価値もそこにあるはずです。これからはその矛盾がアートの場面においては強調されることになってゆくのだろうと予想しておきたいと思います。
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