King Gnu Album”Sympa” 歌詞分析

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King Gnuの「Sympa」は2019年1月にリリースされた2枚目のアルバムです。King Gnu改名後の初のアルバムでもあるため、歌詞分析の対象としてはここから始めたいと思います。

とは言え既にアルバム収録曲の何曲かは既に分析済みで別記事になっていますので、そちらの参照をお願いいたします。

Slumberland

Flash!!!

配信リリース前からライブで披露されてきた曲。ドコモ「5G」CM曲。

歌詞分析

タイトル「Flash!!!」の通り閃光のように駆け抜けている感じがする楽曲です。歌詞は刹那的な輝きと矛盾を内包した生き方、社会の固定概念からの解放が疾走感とともに描き出されています。

冒頭の「全ては冗談だって」というフレーズは「ホンモンかニセモンかなんて くだらねえぜ真実なんて」と続いており、真実や価値基準の不確かさを言っています。ここでは「真実」に対義する言葉として「冗談」が選ばれているのでしょう。

歌詞全体としても相対主義の強い現代では「真実」は絶対的に決まるものではないんだという主張になっています。

「冗談」という言葉からは、一種のシニカルな視点を持つことで固定観念や社会的な規範から自由になろうとしている語り手の意思が感じられます。深刻さを避けて、軽やかに生きてゆこうとする態度とともに、ある種の虚無的な人生観ですね。

「ただ下り坂を猛スピードで駆け抜けるんだ」というフレーズは、楽曲の疾走感を演出する重要なイメージになっています。「下り坂」は、制御不能な速度、加速する勢い、そしてその先に待ち受けるかもしれない破滅的な結末を暗示しているように感じます。

もちろんそれは単なる破滅へのメタファーではなくて爽快感と危険が表裏一体であることの表現であり、刹那的な生に対する肯定なのでしょう。

抗うことのできない時の流れ、未来への不安、社会的な抑圧といったものから解放されて「下り坂」を駆け抜ける瞬間、語り手は圧倒的な自由と高揚感に包まれているはずです。

またブレーキが壊れているという状況は、理性や常識による抑制を拒否して衝動のままに生きる決意の表れなのかもしれません。それは破滅を予感しながらもその刹那的な輝きに全てを賭けるロマンチシズムそのものです。

タイトルの「Flash!!!」は刹那的な輝き、一瞬の閃光のようなエネルギーを象徴しています。楽曲のメッセージは永続や安定ではなく、今この瞬間に爆発する儚くも美しい輝きを放て、というものでしょう。花火のように一瞬で消え去ってしまうものほど強烈な印象が残るからです。

またこの刹那的な輝きには消えゆく運命を受け入れたほろ苦さや諦念が内包されているようにも感じます。「この身を焦がしてでも光放って」というフレーズからは燃え尽きることを恐れない強い意志、最後の「歯止めは最早効かねえんだ」という言葉からは多少の犠牲を払ってでも未来へ向かう強い意志の表現になっています。

「Flash!!!」は刹那的に輝くことを訴え、真実や正しさ、永続的な価値といったものに懐疑的な視線を向けつつ、今この瞬間の感情や衝動を肯定し、矛盾を抱えながらも未来へ進むことを鼓舞しています。

この刹那的なところに価値を置くメッセージは一時期にはロックンローラーなどがよく発していたものですが、King Gnuはそうした流れに乗りつつ新たな視点を加えたと言えるのではないでしょうか。

Sorrows

アサヒビール「アサヒドライゼロスパーク」のCM曲。

歌詞分析

「Sorrows」の歌詞は悲しみや孤独といった普遍的な感情を掘り下げていると思います。悲嘆の感情を共有することでわずかな希望と肯定感を見出そうともしているようです。

表面的には女性と別れた直後の男性の心情を描いているようにも読めますが、別れた原因がまったく示されていないこと、また「彷徨え友よ 生まれては死ぬだけの輪廻の中を」とあり、作中人物の関係は恋仲というより友人関係であり、その死別に接しての悲嘆が描かれていると解釈したほうがよさそうです。

これは歌詞の中で関係の修復が試みられていないことと、孤独の辛さを強調していること、最後には悲しみを受け入れて生きてゆく宣言をしていることなどから見てもおそらく間違いないでしょう。

ブリッジ部分の「“You always stay in my mind.” “I want you stay in your mind.”」というフレーズも記憶の中だけで生きる存在であることを暗示しています。

続く「“Why don’t you come back to me?” この素晴らしき世界を 二人分けあえるよ」というフレーズが再び登場し、冒頭のサビと比較すると「避けようのない痛みを」が「この素晴らしき世界を」に変化している点も注目点で、悲しみを克服し世界の見え方が変わったことを示唆しています。

「Sorrows」の歌詞は友人の死の悲しみを男女の離別の歌のように偽装して書かれているのだと思います。そうした意図がなければもっとはっきりと語り手の関係性を描くでしょうから。

これが実際の経験に基づくものなのかを判断する材料は持ち合わせていないのですが、いずれにしても常田の作詞上の構想力が一段上がった楽曲、もしくは現在の常田へつながる原点の楽曲と言えるのではないでしょうか。

Hitman

ANAのCM曲。

歌詞分析

「Hitman」の歌詞は現代社会の閉塞感や未来への不安と、その中で不確かな未来を切り開いてゆこうとする意志を描いていると思います。

冒頭ではまず現実と理想のギャップに対する切ない疑問を投げかけています。かつて鮮明に見えていた未来はいつの間にか曇り希望を見出すことさえ難しくなっている。

続いて大都市では社会の匿名性と、そこで生きる人々の姿を描写しています。都会は夢を追いかける人々が集まる場所であると同時に競争が激しいので孤独を感じやすい場所でもあります。

「あなたの心の奥底を狙って 弾を撃て」という歌詞は多少こじつけのようではありますが、相手との繋がりを求める切実な願いを表現しているのだと思います。心の壁を打ち破った真のコミュニケーションの比喩であり、自分の心情をさらけ出して相手の心に響く言葉を投げかけることで、心の奥底からの繋がりを実現しようとしていると解釈します。

続いて私たちは日々の忙しさの中で大切なものを見失いがちであることを指摘します。何気ない会話や優しい仕草、温かい笑顔、それらはかけがえのない価値があり私たちを支えてくれる力となるでしょう。しかしそれに気づかないまま「世界が終わりかのように 息巻いて」しまいます。つまりここでも身近な人との繋がりを大切にすることの重要性を訴えています。

そして再び、社会の欺瞞性を表現します。都会では多くの人々が社会的な役割、期待されるイメージなど様々な「仮面」を被って生きています。しかしその「仮面」の下には皆「別の顔が隠れて」いて「でももう怖がらなくていいんだよ 笑顔の仮面を取れ」と呼びかけることで、真の自分をさらけ出すことを訴えている。

こうした仮面を外すことによって初めて他者との真の繋がりを築くことができるという論理構成になっています。

喜びも悲しみも誰かと分かち合うことができれば人生はより豊かなものになります。特に「あなたと笑いあえるのならば それ以上他に何も望まないの」というフレーズは、他者との繋がりが何よりも大切であるという価値観を強く表現しています。全体として心の通い合う人間関係こそが人生の真の価値である、というメッセージになっています。

未来は不確かで時の流れは残酷です。何を信じたら良いのか分からなくなったときでも、相手との心の底からのつながりがあれば霧を晴らすことも容易です。

最後のサビの「弾を撃て 弾を撃て」という言葉は自己開示とともに心の壁の打破、そして相手との心の繋がりへの強い願望を強調しているのだと思います。

全体を通して「Hitman」の歌詞は、現代社会の閉塞感と個人の孤独、そしてそれでも希望を見出そうとする姿勢を描いた作品であると言えるでしょう。

「心の繋がり」自体を象徴する言葉こそ使われていませんが、「心の繋がり」の重要性を訴えており、すべての解決をそこに求めています。少し批判的に歌詞を読むなら、テーマやメッセージのシンプルさの割に少し複雑な構成になっていて分かりづらい感じがするのは否めないでしょうか。

最後に「弾を撃て」という行動を促すメッセージで締めくくられているのは、社会を変えるためには、まず自分自身が変わらなければならないということ、そしてそのために自己開示の勇気と心の壁を打ち破る覚悟を持って相手との繋がりを求める強い意志が必要だということの訴えになっていると思います。

Don’t Stop the Clocks

歌詞分析

「Don’t Stop the Clocks」は愛しい人への愛情と孤独、未来への希望が織りなす、繊細で美しい楽曲。

愛しい人を想う切実な気持ちの表現から始まり、そこにある孤独感が強調されている。「あなた」を慰めて支えたいという気持ちがストレートに表現されている。この歌詞は孤独と愛情がテーマであり、それが表裏一体であることを示唆しています。

続いて「あなた」との繋がりを求める気持ちが表現され、孤独から抜け出し「あなた」と共にある未来が見据えられている。そしてそのためには自然の流れに身を任せて自由に生きることが大切だ、というメッセージだと読めます。

さらに、人生には憂鬱で辛いことがたくさんあるかもしれないけれど、それでも未来を愛することができるのは「あなた」という存在がいるからであり、共に過ごすことで人生が輝き出すだろう、という希望として表現しています。

続く歌詞では、季節の移ろいを描写しながら愛する人と共にいられるならそれらの全てが好きになれると言っています。

この歌詞でポイントとなるのは「時計の針を進めて」というフレーズでしょう。タイトルの「Don’t Stop the Clocks」と同じ意味ではありますが、微妙にニュアンスが異なるのと「時計」が唯一の人工物として使われていることがひっかかります。

歌詞では「あなた」と共にいられるのなら季節が進む(時が進む)と言っていて、タイトルでは「時計を止めないで」と言っている。つまり語り手は「あなた」と共にはいられない現実があることも予見しているのかもしれません。

最後の「変わりゆく季節を 一緒に踊らないかい?」というフレーズでは、共に未来へ進むことを呼びかけています。季節は常に変化し未来は不確かかもしれないけれど、「あなた」と手を取り合いその変化を受け入れて未来へ向かって進んでいこう、というメッセージで締められます。

この歌詞の語り手と「あなた」はかなり抽象的に描かれており、何かの擬人化、もしくは比喩であるようにも感じました。

It’s a small world

歌詞分析

「It’s a small world」はどこか未熟さが感じられる若い二人が、二人だけの夜の世界を築いて束の間の輝きを放つ、そんな解放感と幸福感を歌った楽曲だと思います。

歌詞の冒頭では誰もが寝静まった夜に解放感を味わう二人が登場します。彼らは社会的な評価や他人からの視線を気にせず、ありのままの自分を表現したいという欲求を持っています。

真夜中の社会の喧騒、日常の煩わしさから解放された静かで平和な空間は「今夜、世界は僕らのもの」とも感じられる二人だけの特別な時間であり、他者からの干渉を受けない自由な空間を表現しているのでしょう。二人はこの世界を大切にしたいという気持ちを共有しています。

二人は将来への不安を抱えつつも、今この瞬間を楽しむことを優先します。未来は不確かなものであり、時間は流れ続ける。だからこそ今この瞬間を大切に生きることが煌めきを持つのでしょう。

夏の終わりの熱帯夜という舞台設定は具体性を持って二人の存在感を増幅させます。「夜に眩しいほどに煌めいて」ダンスしている二人は未来への不安を抱えつつも、今この瞬間を精一杯に生きていることを実感しているのでしょう。

「君の世界に僕も生きられるなら それは素敵な事でしょう?」というフレーズは、単なる恋愛感情を超えた、深い絆の存在を示しているように思います。相手の世界を理解して共に生きていくことは人間関係における理想的な姿の一つでしょう。

「大人になんてなりそびれたままでいいの」は社会の規範に縛られず自分らしい生き方を追求できたら良いと感じている。「勝手に世界が回っても」でもわかるように、この歌詞は基本的に煩わしい現実社会よりも愛する人と繋がっていられる世界を優先したいという価値観が強調されています。

この歌詞は夏の夜の一瞬の世界を切り取ったようなそんな印象があります。

Prayer X

Bettown

歌詞分析

「Bedtown」の歌詞は閉塞感漂う日常からの脱却と未来への希望を歌っています。現実への不満を抱えつつも自分たちのペースで未来を切り開く意志と決意を表明する曲になっています。

歌詞中に「二人」が出てくるので語り手は男女のようにも読めますが、実際にはこの歌詞の主体はKing Gnuのバンドメンバーのようにも感じます。

語り手の動機となる部分が「飛び立つんだ」「抜け出すんだ」「僕らだけの言葉で話するんだ」になるのですが、これらから恋愛的な匂いをあまり感じられず、むしろ売れるのに苦労しているバンドの姿のイメージが浮かんでくるからです。

冒頭の「永遠の雨」は停滞している現状や終わりの見えない閉塞感を象徴しているのでしょう。そこから「飛び立つ」ことを決意と「俺たちには雲の向こうの日差しが見えてる」と現状を打破して未来への希望を失わない強い意志を表現しています。

「昔なりたかった自分には多分なれやしないだろう」と理想と現実のギャップの認識と現状を受け入れて「湿った話は嫌いだよ」と過去の執着を断ち切る姿勢を示しています。「身も蓋もないよな」でもやはり困難な状況を直視して現実を受け入れつつ前を向く意思を感じます。

続く「知るかよ どいつもこいつも勝手にしやがれ」では他人の意見に縛られず、自分自身の意志で生きるという反発心が表現されています。その一方で「ただ命を揺らして 君と二人で」は二人の絆が強いことを表現しているのでしょう。

「吹き抜けた未来も 閉ざされた未来も 鏡に映る自分自身だ」というフレーズは、未来は不確かであり良いことも悪いことも起こりうるが、どうなっても全て自分たち自身の責任であり主体的に行動をすることを宣言しています。

そしてまた「身も蓋もないよな」という言葉で厳しい現実を割り切って受け入れる姿勢を示しています。

「このまま二人で 僕らなりの歩幅でいいと思った」は自分たちのペースで活動することを示唆しており、現状のKing Gnuの活動と重なります。「群れからはぐれたって それさえ愛おしく思うんだ」も孤独や孤立を恐れないで、むしろそれを肯定的に捉える姿勢を示しています。

こうした自己成就への志向は恋愛のストーリーではあまり語られないように思いますし、自分たちの絆や意思を大切にしようとしていることも共通の夢を持ったチームであるように見えます。

「いつもの二人で 僕らだけの言葉で話をするんだ」でも「いつもの」が「二人で」に係って「僕らだけの」と続くのはいかにも冗長で、ここでも「二人」が恋愛関係にある男女ではないことを示唆しています。

「馴染みのない会話ばかりじゃ 結局寂しさが募るだろ」と仲間内での日常的な言葉や会話の重要性を強調しており、会話がお互いの理解や心の繋がりのために重要であることを確認しています。

「そうさそれならばいっそ」というフレーズはあまり目立ちませんが、このまま「二人」だけの世界に行こう、という宣言を直接的な表現を避けながら行っています。

まとめると「Bedtown」はこの歌詞が書かれた時期のKing Gnuの状況とこれからの活動についての宣言を恋愛ソング風に仕立てて表現しているものでしょう。

The hole

まとめ

King Gnuのアルバム「Sympa」の楽曲の歌詞を分析してみました。すでに現在のKing Gnuや常田の洗練されたパフォーマンス活動と成功を知っている身からすると、この時期のKing Gnuはまだ荒削りな部分が多かったのだなという感想です。

現在のKing Gnuの複雑な構造でゴージャスな歌詞に比べて「Sympa」の歌詞は世界観が一面的であり内向きな志向があると思います。時間軸も刹那的で瞬間の輝きを表現したものが多かったように感じました。

もちろんこれは歌詞だけからの印象になりますが、常田の感性の若々しさとKing Gnuがまだスタンスに迷い手探りしている様子が感じられたのは面白いことでした。

歌詞を分析する目線であると、現在の常田の技巧的なレトリックが使われたギミックのある歌詞を期待してしまうところがあって、若干拍子抜けしてしまった部分があったことは否めませんが、それでもその萌芽となるような表現はあちこちに見つけられましたし「白日」前後のあたりでKing Gnuの画期となるようなイベントがあったのかなと想像しています。

狩生

  ■ セミリタイヤブロガー ■
  ■ 減速ライフを実践中! ■
  ■ のんびり生きましょう ■

読書 / 古代史研究 / ウォーキング / ダウンシフター / ドロー系絵描き / AppSheet / 脱消費主義 / 英文小説

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