EV sales are skyrocketing, more than 100 models are on sale, and charging infrastructure is getting better. So why does everything seem so precarious all of a sudden?
https://www.theverge.com/23934889/electric-vehicle-ev-transition-sales-delays-politics
電気自動車(EV)への移行はほとんど今、始まったように思えるかもしれません。実際にEVの販売台数は急増しており、100種以上のモデルが販売されています。懸念されていた充電のための設備環境も改善されつつあります。では、どうしてこんなにも突然にすべてがあやふやな状況になったように見えるのでしょうか。
The Vergeの記事を参考にしながら最近のEVをめぐる状況をまとめてみました。
電気自動車への旅のはじまり
絶好調?なEV
米国での電気自動車(EV)の販売台数は年末までに100万台、自動車全体の9%に達すると予想されています。これはなんと前年比50%の増加であり、2年連続の急増となっています。
世界的に見ると、年間の販売台数は1,400万台と予測され、前年比で33%増と驚くべきものとなっています。ブルームバーグによると、中国では大衆市場への導入が着実に進んでいると述べられ、プラグインハイブリッド車が市場の3分の1以上を占めているそうです。同様にヨーロッパでも順調に進んでいます。
それでは、なぜこれほど全てが調子が悪いようにも見えるのでしょうか。最近のニュースでは、生産の遅延、工場建設の延期、モデルの廃止、そして常に壊れているか普及が遅れていると言われている充電設備への懸念などで溢れています。
こうしたニュースと統計上の数字は大きくかけ離れているようにも見えます。すべては順調に進んでいます。いや待て、事態は悪化しつつある。EVは未来だ!いいやEVなんてもうオワコン!
まあ落ち着いて、深呼吸でもしましょう。慌てることは何もありません。急激な価格変動、新しい補助金、工場労働者のストライキなど、様々な別々の要素が数多く存在し、それらが絡み合い、EVへの移行についての現状認識をしようとするあらゆることを妨害しているだけです。大統領選挙では政治的偏向が事態をさらにわけのわからないものにするのは確実でしょうが、まあそれでも物事を整理しようとすることに損はないでしょう。
アーリーアダプターの枯渇
カーディーラーにとって、アップルウォッチを着用している人にEVを販売することはそれほど困難なことではありませんでした。それがパタゴニアのベストやオールバーズのスニーカーのようなものであっても同様です。そしてそれがアナログの腕時計やスケッチャーズを履いているような人だと難しくなります。
”アーリーアダプターは、まあ全てを受け入れてくれました” エドマンズのインサイトディレクターのジェシカ・コールドウェル氏は言います。” それ以外の人たちはみんなクルマの購入でリスクを冒すことにそれほど積極的ではないと感じている” と述べています。
”EVの普及は次の段階に移行しようとしているようです。マスマーケットにより多くの関心を持ってもらう必要がある。彼らはアーリーアダプターほど熱心でも積極的でもないので、EVを売り込んでゆかないとならない。”
ディーラーにとってこれは本当に困難なことになるでしょう。慎重で価格に敏感な購買層にまったく新しいテクノロジーに対応してもらわなければなりません。EVを買うことは、大きな液晶画面、フェイクのグリル、細長い形状のライトのクルマを買うということだけではなく、航続距離の事前確認、充電の心配と住宅設備の導入など、まったく新しいライフスタイルを受け入れることです。
もちろん販売促進のための連邦と州政府からの補助金がありますが、これらの補助金をうまく活用するのは困難です。ほとんどの人はそうしたものを聞いたことすらありません。正直なところそんなことを考える暇がある人なんているんでしょうか?私なら考えるだけでうんざりです。
コールドウェル氏は、”最終的に世界中でEVへ転換することは必然だけど、普及曲線は停滞期を挟んで上下することになるでしょうね。自動車メーカーが強気一辺倒の計画の一部を縮小に転じているからそんな感じになるんじゃないかと思うわ。” と述べた。
理想と現実のはざま
最近の縮小された計画には次のようなものがあります。
- フォードは売れ行き鈍化に対応するため、新しいEV工場への支出120億ドルを一時的に停止した。
- GMは、シボレー・シルバラード、エクイノックスEV、GMCシエラ・デナリEVなどのトラックやSUVなどの生産開始を延期する。
- GMはまた、来年開始予定だったオリオン工場でのEVトラックの生産を2025年末まで延期している。
- ホンダとGMは手頃な価格のEVの共同開発計画を採算の見通しが立たないとして中止した。
- テスラのイーロン・マスクCEOは決算説明会のほぼ全てを金利についての説明に費やし、メキシコの新しい工場建設計画を撤回するようだ。
- テスラと言えば、同社が始めた価格競争を乗り切るため、EVリーダーの同社の第3四半期の利益率は4年ぶりの低水準を記録した。
- ハーツは、新しく購入したEVの修理費がガソリン車の2倍であることを認め、EV計画を縮小している。
- フォルクスワーゲンは、中国の補助金や競合を理由に主力EVであるID.3とクプラのボルンの2車種の生産を中止すると発表した。
今や、悪名高きEV懐疑論者として知られる豊田章男氏(前トヨタCEO)に”だから言っただろ”と言われているような最悪の状況です。従来の見方では、トヨタは競合他社ほど熱心にEVの流行には乗らなかったため、ほとんど消滅の危機に瀕しているとさえ考えられており、ロッド・ティドウェルばりの口調で”EVを見せてくれ”と、環境保護主義者たちから最善を尽くすよう迫られていました。
しかし、豊田社長が純BEVよりハイブリッド車を好むのは、とりわけ米国の自動車購入者がハイブリッド車に流れている今となっては、先見の明があるようにもみえます。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、最近開催されたジャパン・モビリティーショーで豊田社長は記者団に対し「人々はようやく現実を見るようになった。カーボンニュートラル達成という山に登る道はいくつもあります。」と語りました。
大きなトラック、大きな頭痛
米国の自動車メーカーにも多くの責任があります。彼らは従来の需要の傾向がEVにも適用できると思いこんでいました。そのためほとんどの自動車メーカーが最初から大型トラックやSUVを優先したのです。特にGMはその点で罪深くハマーEVトラックとSUVを先行する一方、小型で実用的なシボレー・ボルトをリコール、そして生産中止になるまで何年も放置しました。
しかしサプライチェーンが健全に成熟していないままでは、ホンダ・シビックと同じくらい重いバッテリーが必要なプラグイントラックを簡単に作ることなどできません。
ブルームバーグによればバッテリーパックの平均容量は、2018年から2020年にかけて40kWhから60kWhへと毎年10%増加しました。シボレー・シルバラードEVからラム・1500Rev、テスラ・サイバートラックに至るまで、より大型のトラックが市場に投入されるにつれてバッテリーパック容量の増加率はさらに加速すると予想されます。
自動車メーカーは、より長い航続距離と信頼性の高いバッテリー容量に対する顧客の要望に応えていると言います。しかしサプライチェーンがこのペースに追従することは非常に難しいでしょう。特に米国の政策立案者がバッテリー原料生産を中国から切り替えようとしている状況では。
もちろんこれはEVの価格が高騰している原因です。最近の需要の減少を見ればほとんどの人にとっては高すぎるのでしょう。一方、中国では中産階級の消費者に手に届く小型で安価なモデルを優先することで私たちの利益を奪っています。研究者によると、2022年上半期の中国におけるEVの平均価格は3万5,000ドル以下でした。一方米国では5万3,000ドルでした。
またこの数字は主にテスラの容赦のない値下げのせいで減少しています。しかしより多くのEV(特に前述の大型で高価なトラック全て)が市場に参入し、テスラのシェア(現在約50%)が低下し続けるにつれて、価格の減少は頭打ちになる可能性は高いでしょう。
政治的なフットボール
おそらく今現在どの企業にも起こりうる最悪の事態は2023年のアメリカ政治の渦に巻き込まれることでしょう。共和党の政治家があなたを”目が覚めた”と呼び始めると、それは非常に馬鹿げて愚かなことになるでしょう。
もうそうなっていると言う人もいるかもしれません。ドナルド・トランプ前大統領はEVのバッテリーは”非常に環境に悪い”と非難しましたが、EVを推進している環境変人も同様に非難しました。フロリダ州知事のロン・デサンティス氏は「バイデン氏のEV義務化」を撤廃すると述べ、ニッキー・ヘイリーも”電気自動車のバッテリーの半分は中国で作られている”からそれに同意しました。ヴィベク・ラマスワミ氏はミシガン州で新しい電池工場に反対する政治集会を開催し、EVを購入した人々は「心理的不安定性」を示していると言いました。
良くも悪くも、EVは今や政治的なものになっており、自動車メーカーは人口のかなりの割合の人々がイデオロギーに基づいて製品の購入を避けた場合に生じる課題に取り組まざるを得なくなっています。
カルフォルニア大学バークレー校の調査報告書によると、2012年から2022年にかけてEVの新規登録の半数以上が民主党が多い上位10%の郡のもので、新規登録の約3分の1は民主党上位5%の郡のものでした。つまりEVの普及は青い州で盛んで、赤い州ではそうでもないということです。
”米国のEV市場が成熟しきるまで十分な時間が経ったと思われるかもしれない、しかし米国のEVの普及と政治的イデオロギーの間には強力で永続的な相関関係がある” と結論付けられます。
イーロン・マスクがいわゆる”woke mind virus”の対抗場の筆頭であっても、右寄りの消費者を動かすには十分ではないかもしれません。ジョー・バイデン大統領がEVに政治的な鞭を打ったという事実からもそう言えるでしょう。EVへの転換はホワイトハウスの気候変動対策の大きな柱になっています。同政権は消費者への税額控除、充電インフラ、製造奨励金などに数十億ドルを投入しています。
そして今、共和党は、そうすることが相対的に”良い政治”であるかどうかに関わらず、これら全てに反対しなければなりません。バイデンがやっていることなのだから悪いことです。市場で最も人気のあるブランドであるテスラもまた、マスクのネット上での挑戦的行為のおかげで奇妙な分離状態になってしまいました。
フォードのジム・ファーリーCEOは最近、”テスラは政治的フットボールになってしまった。”と語りました。
手の届かないEV
そして問題は政治だけではありません。実際EVは価格の問題を抜きには語れません。もちろん値段が高すぎるのです。
新車購入者を調査している世論調査会社ストラテジック・ビジョンによると、新車購入者の世帯収入の中央値は数十年間で9万ドルから近年は12万2,000ドルに上昇しています。そしてEVを購入する人々はさらに裕福であり、世帯収入の中央値は18万6,000ドルです。
EVが裕福なリベラル派だけのものであると見られているうちは真の意味での普及はないでしょう。そして残念ながら現在は金利が22年ぶりの高水準にあり、普通の人々は新車を買うお金などは持ち合わせていません。
コールドウェル氏は、”10年にわたる低金利時代に大規模な支出が続いたあとでは、消費者は支出の水準を縮小しています。必ずしもそうしたいわけではなく、そうせざるを得ないからです。”
まとめ
現在のところ統計的な数字の上では好調なEV販売ですが、ここにきて様々な理由が重なり若干問題が発生しつつあるようです。主に需要の減退が原因ですが、根本にはバッテリーの材料の高騰があるようです。
米国でのEVはアーリーアダプターへの販売が一巡し、いよいよマスマーケットへの普及段階に来ているのでしょう。しかし思うようにはうまくいっていないようで、ライフスタイルごと新しくすることが求められています。
米国の自動車メーカーのEV開発は計画の縮小が相次いでおり、かなり需要が落ち込んでいるのかもしれません。またトヨタはここに来て風向きがよくなったと思われていそうです。
米国の自動車メーカーのEVモデル展開が大型トラックやSUVが中心で、EVの利点が活かせる小型車がないがしろにされがちなことが販売不振に繋がっているようです。
またEVのサプライチェーンがバッテリーを中心にまだ脆弱であるため値下げをしているにも関わらず、製造費が高騰しているため利益率が落ちているのではないかと思います。
米国ではEVが政治的な材料にされており、政治的立場が消費行動にも影響を与えつつあるようです。
特に高級なEVばかりで安いEVが出てこないままであると、普及が相当に長くかかる展開も現実味が出てきたような気がします。
コメント